趣味と実益

 テレビドラマの鑑賞を趣味にしています。正確にいえば、「連続テレビドラマをみながら、来週の展開や最終回に向けたシナリオを予想しながら鑑賞すること」を趣味としています。

 サスペンスであれば、「この人が黒幕で、動機はこう。次はこの人が命を狙われるな。」と予想します。恋愛ドラマであれば、「この人はこれからこうなって、最終的に誰々と結ばれて終わるのだな」など、真剣に予想しながら観ています。

 最近では、単純に脚本家の視点から予想するだけでは飽き足らず、プロデューサーの視点から、敢えてここにこの役を配置し、この俳優をキャスティングしていることから、彼にはこういう大事な役割があるのだ、というマニアック(?)な視点で観るようになってしまいました。

 予想が的中すれば、「それみたことか。」と喜び、予想が外れたときは「なるほどね。でも自分が考えたシナリオの方が面白かったね」などと、上から目線で振り返ります。我ながら面倒な視聴者だと思いますが、これが楽しくて仕方ないのです。

 さて、こうした「展開を読む」ことは、実は弁護士業にとっても重要なスキルだと思います。弁護士業とテレビドラマの鑑賞とは全然違うようで共通点も多いのです。

 弁護士の仕事でも、相手や関係者の立場に立って考え、どのように動いたらこちらが望む展開に近づけるのかを予想しながら方針を立てないと、どんどん明後日の方向に向かってしまいます。

 紛争であれば、単なる勝ち負けだけでなく、着地点を見極め、そこに向けてどのようなアクションを起こすべきかを考えます。相手や裁判所の反応も先読みし、最終的にはこう収めていく、という「展開を読む」のです。

 企業法務の分野で契約締結交渉を行う場合でも、本質は同じです。「最初からこちらがAという条件を出したら抵抗されて話がまとまらない、だから、敢えて最初はBという条件から合意して、最後の詰めの段階で、Cとの引き合いでAについて合意してもらう条件をだす」といった具合です。

 こうした「展開を読む」スキルは、単純に法令や判例の知識の蓄積や当て嵌めの作業とはまた違ったスキルです。いかに相手や関係者の性格や立場、動き方を想像できるかがポイントで、自分なりの人生経験を掛け合わせて答えを出していく、総合的な人間力が試されるスキルだと思っています。

 こうしてみると、展開を予想しながらドラマ鑑賞をすることは、単なる趣味の枠を超えて、脚本家や制作スタッフの考え方を想像しながら鑑賞しているわけで、展開を読むスキルを伸ばすことにもつながっているように感じてきます。ポジティブシンキングです。

 弁護士は、受任した案件を成功に導くためのプロデューサーであり、脚本家であり、演出家であります。ときには、自ら代理人として立ち振る舞う演者も兼ねているのだ、などと、最後によく分からないまとめをしたところで、今日も、仕事終わりに、録画しておいたドラマを観るとします。

“mints(ミンツ)”への期待

 裁判関係の書面はFAXで送るのが当たり前、それが我々の業界でした。

 しかし、ついに、ようやく、満を持して、民事裁判において、オンラインで書類提出をすることが出来るシステムの本格的な運用が開始されました。

 その名を「民事裁判書類電子提出システムmints(ミンツ)」といいます。最初にこの情報に接したときは、「mints」という文字だけでした。

 「これはどう読むのだ?ミンツで大丈夫だよな?裁判所でミンツと言って、もしマインツ読みだったらどうしよう。」と内心ビクビクしていたら、ある先輩が、何のてらいもなく「いやー、ミンツが始まりますなぁ。もう登録した?」と話していたので、「ああ、ミンツと読んで良かったんだ。」と、こっそり安堵したのは良い思い出です。

 安堵すると、次は、「はて、なぜmintsという、凝った名前なのだろう。」という疑問を持ちます。何かの略称だろうか。調べてみると、“mints”とは、「MINji saibansyorui denshi Teisyutsu System」の略称ということでした。

・・・なんですと。

 この略称が公表されたとき、各所から様々な反応があったであろうことは容易に予想できますが、野暮なことは言わないことにします(新たな運用を普及していくには馴染みやすい愛称かつ話題性のある愛称が一番!だと思うので、私としては好意的に受け止めています。)。

 今後どのように普及していくのか、利便性向上への期待を込めて、実務運用が広がっていく過程を見守っていきたいと思います。

弁護士の選び方 その2 専門性と事案解決力

1 専門分野が生じる背景

よくある質問に「弁護士は六法全書を全て暗記しているんですか?」というものがあります。答えはNoです。どんなに優秀な弁護士でも、人間の脳が記憶できる容量をはるかに超えていると思われますし、そもそも調べるために六法やインターネットがあるのですから、暗記すること自体がナンセンスです。

しかし、暗記はしていなくても、その法律のことを理解していないと仕事はできません。では、弁護士は全ての法令を理解しているのかというと、この答えもNoです。

この記事を執筆している2023年2月の時点で、法令検索システム「e-Gov」には、およそ9,000もの法律と政省令が登録されています。これらの全てを網羅的に理解しておくことは物理的に不可能な話で、弁護士ごとに扱う分野が限定され、専門化が進んでいくことは当然なのです。

専門化が進むことにはもう一つの理由があります。それは、弁護士も報酬を得るために仕事をしている、ということです。仕事がたくさん生まれる分野には、それだけ多くの弁護士が仕事を求めて集まってきます。競争原理が働きますから、依頼者に選ばれようと、弁護士の専門性も磨かれていくことになります。

このようにして弁護士の専門分野が生まれる結果、同じ弁護士でも、あるジャンルを得意にしている弁護士と、そうではない弁護士とで、事件処理に大きな差が生じることになります。100m走と10,000m走、どちらも同じ陸上のトラック競技ですが、求められる能力が異なるので、トレーニングの仕方が違うのと同じようなことです。

当然、弁護士に相談する側にとっても、その分野に強い弁護士に相談した方がよいのです。


2 専門性の出やすい分野とは

弁護士が扱う業務分野の専門性にも濃淡があると思います。当方の独断により、専門性が出やすい分野から順番に5段階に色分けすると、以下のとおりです。

★★★★★:国際取引、海事・航空、税務、知的財産

★★★★:競争法(独占禁止法)、行政事件、金融法務(銀行・証券・保険・信託等)、キャピタルマーケット、医療、通信・放送、テクノロジー

★★★:法人倒産・事業再生、М&A、労働問題、危機管理・不祥事対応、特殊な刑事事件(裁判員裁判等)

★★:不動産、事業承継、債権回収、交通事故、高齢者問題、個人情報保護

★:契約法・商取引、会社法対応、消費者問題、個人の債務整理・倒産、家事事件(離婚、遺言・相続など)、刑事事件(特殊な刑事事件を除く)


※あくまでも専門性の出易さについて筆者の主観を基にランク分けしたものです。分野の難易度や優劣を格付けする意図はありません。

★★★★~★★★★★の分野は、専門に扱っている弁護士が、特に強みを発揮する分野です。専門性が特に高いということに加えて、業務をこなすための前提知識(語学や業界慣習等)やスキル(マイナーかつ難解な条文解釈等)を身に着けるまでの時間がかかるためです。これらを習得するためには数日単位では難しいため、若手弁護士のうちから時間をかけて専門にしている弁護士が多く、未経験の弁護士が同じ土俵に立つことが難しい分野であると言えましょう。

例えば、普段は離婚や相続問題を多く扱っている弁護士が、急に国際取引や特許訴訟の対応を依頼されても対応困難であることが多いので、弁護士を選ぼうとする際に知っておいた方がよいと思います。

★~★★★の分野も、それぞれその分野に突出した法律事務所や弁護士が存在しており、特に★★★に挙げたジャンルに関しては、その分野で実績をあげている弁護士に優位性があることは否めないと思います。ただ、★~★★★の分野については、専門性はあるものの、司法試験を突破した法的知識と熱意があればカバーすることが十分可能な分野であるという側面もあると思います。実際、この範囲であれば網羅的に対応しているという弁護士も多いと思います。この分野について相談しようとするときは、専門性も大事ですが、弁護士との相性もとても重要だと思います。弁護士との相性については別の記事を執筆したので、そちらをご確認ください。


3 事案解決力

弁護士の評価は、知識の量だけで決まるものではありません。

優秀といわれる弁護士は、持っている知識の量だけではなく、書面作成能力やプレゼンテーション能力など、知識をアウトプットすることに長けています。

また、事案解決へのアプローチは知識をアウトプットすることだけではありません。

相手が嫌がることや喜ぶことを把握して交渉したり、あるいは自分の人脈を駆使して解決をしたりすることができる弁護士もいます。

こうした総合的な「事案解決力」も、弁護士が習得すべき専門スキルの一種です。

事案解決力をもった弁護士なのかどうかを見極るには、、、その弁護士として話してみて、その弁護士が話す内容だけではなく、話し方や、事件へのアプローチの仕方にも注目されると良いのではないかと思います。


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