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炎上と弁護士

IT技術の進展は、人類のコミュニケーションの取り方を激変させました。
その副作用の一つが、オンライン上で特定の対象に批判や誹謗中傷が殺到する「炎上」現象だと思います。
記憶をたどると、インターネットが普及してきた1990年台の頃は、まだ「炎上」という用語は一般的ではなかった気がします(「炎上」といえば、野球のピッチャーが集中打を浴びたり大量失点したりすることでした。)。
しかし、現代社会において「炎上」は頻繁に起こるようになりました。「炎上」発生のメカニズムについては色々と論じられているので深入りせず、本稿では私が弁護士として「炎上」の問題に接するときの心構えを書いておきます。

そもそも「炎上」は何が問題なのでしょうか。
色々な問題があるでしょうが、直接的な問題は、「炎上」の標的とされた方の生命身体が危険に晒されることだと思います。度重なる批判や誹謗中傷により、標的にされた方が精神を病み、最悪の場合には死に至ることも有り得ます。
これは絶対に有ってはならないことだと思います。
標的が企業の場合も、「炎上」による信用の低下は、企業としての死に通じるものがあります。これも絶対に避けなくてはいけません。

ですから、「炎上」した当事者から相談を受けた弁護士として求められるのは、正論を振りかざして議論をすることではなくて、“鎮火”することだと思っています。誹謗中傷に対する民事刑事の対応は、“鎮火”した後に考えるべきことで、とにかく“鎮火”することに全力を尽くすべきと思います。
最近では弁護士が記者会見に同席して発言したり、あるいは声明を出したりするケースも増えてきましたが、私からみて、“鎮火”に成功しているのは、必ずしも法的に正しい発信をする弁護士ではなく、世の中の多数意見を理解し、多数意見に寄り添うコメントをされている弁護士だと思っています。
いかに正論であっても、世論の理解が得られにくい主張を振りかざすこと(例えば、刑事事件で炎上しているときに、黙秘権が基本的人権であることを強調するなど)で、“鎮火”どころか“燃料投下”になっているケースも散見されます。発言内容自体が法的に正しいとしても、“鎮火”の業務を受任した弁護士の対応としては間違っていると思います。

こうしてみると、弁護士として“鎮火“の業務を請け負う以上は、世の中の多数意見を理解しておくことは大切なことです。感覚を研ぎ澄ますため、ニュースをチェックするときには、単に自分の意見や感想を持つことだけではなくて、「このニュースをみて、世の中の多数派はどう思うのだろうか」という視点をもつようにしています。
多数派の意見を理解した上で最善の対応を導き出す、それがこの分野におけるプロの仕事なのだと思います。