“mints(ミンツ)”への期待

 裁判関係の書面はFAXで送るのが当たり前、それが我々の業界でした。

 しかし、ついに、ようやく、満を持して、民事裁判において、オンラインで書類提出をすることが出来るシステムの本格的な運用が開始されました。

 その名を「民事裁判書類電子提出システムmints(ミンツ)」といいます。最初にこの情報に接したときは、「mints」という文字だけでした。

 「これはどう読むのだ?ミンツで大丈夫だよな?裁判所でミンツと言って、もしマインツ読みだったらどうしよう。」と内心ビクビクしていたら、ある先輩が、何のてらいもなく「いやー、ミンツが始まりますなぁ。もう登録した?」と話していたので、「ああ、ミンツと読んで良かったんだ。」と、こっそり安堵したのは良い思い出です。

 安堵すると、次は、「はて、なぜmintsという、凝った名前なのだろう。」という疑問を持ちます。何かの略称だろうか。調べてみると、“mints”とは、「MINji saibansyorui denshi Teisyutsu System」の略称ということでした。

・・・なんですと。

 この略称が公表されたとき、各所から様々な反応があったであろうことは容易に予想できますが、野暮なことは言わないことにします(新たな運用を普及していくには馴染みやすい愛称かつ話題性のある愛称が一番!だと思うので、私としては好意的に受け止めています。)。

 今後どのように普及していくのか、利便性向上への期待を込めて、実務運用が広がっていく過程を見守っていきたいと思います。

弁護士の選び方 その2 専門性と事案解決力

1 専門分野が生じる背景

よくある質問に「弁護士は六法全書を全て暗記しているんですか?」というものがあります。答えはNoです。どんなに優秀な弁護士でも、人間の脳が記憶できる容量をはるかに超えていると思われますし、そもそも調べるために六法やインターネットがあるのですから、暗記すること自体がナンセンスです。

しかし、暗記はしていなくても、その法律のことを理解していないと仕事はできません。では、弁護士は全ての法令を理解しているのかというと、この答えもNoです。

この記事を執筆している2023年2月の時点で、法令検索システム「e-Gov」には、およそ9,000もの法律と政省令が登録されています。これらの全てを網羅的に理解しておくことは物理的に不可能な話で、弁護士ごとに扱う分野が限定され、専門化が進んでいくことは当然なのです。

専門化が進むことにはもう一つの理由があります。それは、弁護士も報酬を得るために仕事をしている、ということです。仕事がたくさん生まれる分野には、それだけ多くの弁護士が仕事を求めて集まってきます。競争原理が働きますから、依頼者に選ばれようと、弁護士の専門性も磨かれていくことになります。

このようにして弁護士の専門分野が生まれる結果、同じ弁護士でも、あるジャンルを得意にしている弁護士と、そうではない弁護士とで、事件処理に大きな差が生じることになります。100m走と10,000m走、どちらも同じ陸上のトラック競技ですが、求められる能力が異なるので、トレーニングの仕方が違うのと同じようなことです。

当然、弁護士に相談する側にとっても、その分野に強い弁護士に相談した方がよいのです。


2 専門性の出やすい分野とは

弁護士が扱う業務分野の専門性にも濃淡があると思います。当方の独断により、専門性が出やすい分野から順番に5段階に色分けすると、以下のとおりです。

★★★★★:国際取引、海事・航空、税務、知的財産

★★★★:競争法(独占禁止法)、行政事件、金融法務(銀行・証券・保険・信託等)、キャピタルマーケット、医療、通信・放送、テクノロジー

★★★:法人倒産・事業再生、М&A、労働問題、危機管理・不祥事対応、特殊な刑事事件(裁判員裁判等)

★★:不動産、事業承継、債権回収、交通事故、高齢者問題、個人情報保護

★:契約法・商取引、会社法対応、消費者問題、個人の債務整理・倒産、家事事件(離婚、遺言・相続など)、刑事事件(特殊な刑事事件を除く)


※あくまでも専門性の出易さについて筆者の主観を基にランク分けしたものです。分野の難易度や優劣を格付けする意図はありません。

★★★★~★★★★★の分野は、専門に扱っている弁護士が、特に強みを発揮する分野です。専門性が特に高いということに加えて、業務をこなすための前提知識(語学や業界慣習等)やスキル(マイナーかつ難解な条文解釈等)を身に着けるまでの時間がかかるためです。これらを習得するためには数日単位では難しいため、若手弁護士のうちから時間をかけて専門にしている弁護士が多く、未経験の弁護士が同じ土俵に立つことが難しい分野であると言えましょう。

例えば、普段は離婚や相続問題を多く扱っている弁護士が、急に国際取引や特許訴訟の対応を依頼されても対応困難であることが多いので、弁護士を選ぼうとする際に知っておいた方がよいと思います。

★~★★★の分野も、それぞれその分野に突出した法律事務所や弁護士が存在しており、特に★★★に挙げたジャンルに関しては、その分野で実績をあげている弁護士に優位性があることは否めないと思います。ただ、★~★★★の分野については、専門性はあるものの、司法試験を突破した法的知識と熱意があればカバーすることが十分可能な分野であるという側面もあると思います。実際、この範囲であれば網羅的に対応しているという弁護士も多いと思います。この分野について相談しようとするときは、専門性も大事ですが、弁護士との相性もとても重要だと思います。弁護士との相性については別の記事を執筆したので、そちらをご確認ください。


3 事案解決力

弁護士の評価は、知識の量だけで決まるものではありません。

優秀といわれる弁護士は、持っている知識の量だけではなく、書面作成能力やプレゼンテーション能力など、知識をアウトプットすることに長けています。

また、事案解決へのアプローチは知識をアウトプットすることだけではありません。

相手が嫌がることや喜ぶことを把握して交渉したり、あるいは自分の人脈を駆使して解決をしたりすることができる弁護士もいます。

こうした総合的な「事案解決力」も、弁護士が習得すべき専門スキルの一種です。

事案解決力をもった弁護士なのかどうかを見極るには、、、その弁護士として話してみて、その弁護士が話す内容だけではなく、話し方や、事件へのアプローチの仕方にも注目されると良いのではないかと思います。


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ご挨拶

はじめまして、弁護士の名藤です。
このブログでは、日々の弁護士業務で感じたことや思うことを発信していきます。
細く長くをモットーに、更新頻度やジャンルは決めず、肩の力を抜いて、色々と書き連ねていこうと思います。
どうぞよろしくお願い致します。

弁護士の選び方 その1 弁護士との相性

1 どの弁護士に頼む?

 司法司法制度改革により、ここ数年で弁護士の数は急激に増加しました。日弁連の統計資料によると、2002年の弁護士数は18,000名強でしたが、このコラムを執筆している2023年2月の時点で、日弁連のデータベースには44,000名を超える弁護士が登録されています。この20年で、およそ2.5倍に増加したことになります。

 弁護士へのアクセスの仕方も、時代の変化とともに様変わりしました。かつては、弁護士というと堅苦しく敷居の高いイメージで、「飛び込み」で法律相談にいくことには躊躇があったという話を聞きます。

 しかし、そのような堅い弁護士のイメージは過去のものとなりました。2000年に弁護士の広告が本格的に解禁され、弁護士が自らメディアを用いて情報発信する傾向が顕著になり、ここ数年でテレビやyoutubeに出演して活躍される弁護士も一気に増えました。

 現在、インターネット上には多くの弁護士や法律事務所に関する情報であふれており、市民や企業が弁護士にアクセスすることを容易にするためのポータルサイトも充実しています。知り合いに弁護士がいるよ、という方も多くなったのではないでしょうか。

 このような現代社会において、弁護士を頼ろうとする方は、「どのようにして弁護士にアクセスしたらよいのか」というよりも、「たくさんいる弁護士の中から、どの弁護士を選んだらよいのか」という点を知りたいのではないかと思います。

 そこで、今回は、「世の中にはたくさん弁護士がいるけど、誰に頼んだらよいのか?」という疑問について、弁護士業界の内情を知る立場から、こたえてみたいと思います。

2 最も重要な要素は「相性」

 弁護士を選ぶ上でよくいわれていることは、そのジャンルが得意な弁護士を選ぶことだと思います。弁護士の業務は幅広いので、とても重要な視点です。

 この点については別の機会に書きたいと思いますが、今回強調しておきたいのは、「自分と相性の合う弁護士を選びましょう!」ということです。

 相性が悪ければ友人や恋人関係が長く続かないのと同じことです。弁護士も人間で様々な個性がありますから、相性が悪ければお互い嫌な思いをすることになる、という意識を持っておいた方がよいのです。

 例えば、法律相談の場面で、じっくり時間をかけて話を聞き、相談者の心情に寄り添うタイプの弁護士もあれば、要領よくポイントを押えて端的に問題意識を示すタイプの弁護士もいます。ユーモアを交えてリラックスした雰囲気を作り出すことが上手なタイプもあれば、寡黙だが真面目に話を聞いてくれるタイプもあるでしょう。

 仕事の進め方についても、マメに連絡をくれた方がよいのか、細かいことは弁護士にお任せしてしまいたいと思うのかは、相談する方の性格によって差がでるところだと思います。

 これらのタイプはどれが良い悪いではなく、性格の相性の問題だと思います。弁護士と相性が合わないと、どんなに知識と経験豊富な弁護士が担当したとしても、性格の不一致から相談する側は、ささいな言動が不満に感じます。せっかく法律相談にいったのに、さらなるストレスを抱えてしまう、という悪循環に陥ることになってしまいます。 

 残念なことに、そのようなケースは頻繁に発生しているのです。

3 「柔軟性」をもった弁護士

 では、自分と相性の良い弁護士を探すためには、どうしたらよいのでしょうか。

 すぐに性格や人となりを見抜くことは、なかなか難しいことです。そのため、まずは、自分のことをよく知っている友人・知人から、自分の性格に合った弁護士を紹介してもらう方法が、手堅いと思います。 

 しかし、なかなか、そのような紹介の機会に恵まれないこともあるでしょう。

 そのようなときは、インターネット等で調べて、自分からアクセスしてみることになると思います。そのときに注目してほしいポイントは、相談しようとする弁護士が、相談者の性格に合わせようとする「柔軟性」をもっているかどうかです。

 私は、世の中の弁護士には、相手との性格の不一致があることを認識して、それを解消しようと努力する弁護士と、そうではない弁護士がいると思っています。そして、「柔軟性」をもち、相談者の性格に合わせて自分をコントールできる弁護士こそ、真のプロフェッショナルだと思っています。

 これを強く意識している弁護士は、実はそこまで多くないのかもしれません。己の信念を譲ることは容易なことではないですし、己の信念に従って仕事と向き合うことも、それはそれで立派なことです。否定するようなことではありません。ただ、そのような性格では、相談をする側に大きなストレスを与えるように思います。

4 「柔軟性」を見極める

 ということで、弁護士探しの際には、専門性はもちろんのこと、自分の性格に合わせてくれそうな「柔軟性」をもっているか?という視点が一番大事だと思います。

 では、「柔軟性」をもっている弁護士かどうかはどのように見極めたらよいでしょうか。企業の人事の経験がある方であれば見極めるノウハウをもっているかもしれません。しかし、そうではない場合には、端的に、「私と意見が合わないときは、どのように対応されますか」といった、直球の質問をぶつけてみるのもよいと思います。

 その答え方には、結構、弁護士の性格が表れてくるからです。「納得していただけるまで時間をかけて説明をします」「他のやり方を提案します」「意見が合わない原因を一緒に考えます」「意見が合わないときは、辞任させていただきます」など、同じようなことでも、弁護士によって微妙なニュアンスの違いが出てくると思います。

 正解は人それぞれで、自分にとって、「ああ、私の性格のことを考えてくれているな」と感じる回答を得ることができれば、その弁護士と進めてみてもよいのではないでしょうか。

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